青山財産ネットワークスは、人生100年時代を幸せに過ごすために、「財産」面での支援に注力すると同時に、「心」と「体」の健康も大切であると考えています。
本年5月、「健康に長生きするために」をテーマに行ったオンラインセミナーより、内容を一部抜粋してお届けします。
今回お招きした講師は、多数メディアに出演されている東京藝術大学保健管理センター准教授・精神科専門医の田中伸一郎先生です。
成人の5人に1人は睡眠に悩みを持っていると言われている日本。また、年齢を重ねると、快眠・快食・快便・運動の実践が難しくなる方が多くなるのが現状です。「心」と「体」ともに、健康で長生きするための秘訣について、田中先生にお話しいただきました。
- 田中 伸一郎田中 伸一郎
- 東京藝術大学保健管理センター准教授精神科専門医
2000年に東京大学医学部を卒業後、精神科医として赤光会齊藤病院や杏林大学医学部精神神経科学教室で豊富な臨床経験を積む。2016年からは帝京平成大学で精神医学、精神保健学、犯罪心理学、生命倫理などの幅広い分野の講義を担当。2019年からは獨協医科大学埼玉医療センターで中高生のメンタルヘルスに携わる。2022年から東京藝術大学保健管理センターで大学生の精神科診療を行い、都内のクリニックでも小中高生の診療を行っている。様々な精神障害やメンタルヘルスの課題について正しい情報をわかりやすく発信することで、誰もが心の問題を理解し、偏見・差別をなくし、お互いに助け合うことのできる社会づくりを目指している。「ひるおび」や「Nスタ」などのメディアにも多数出演されている。

心の健康のためには体の健康が大切
「心の健康」を考える上で大切なのは、「心」と「体」の関係です。
心と体はつながっており、心だけを元気にするのではなく、体調を整えることも大切です。心の健康には体の健康が不可欠です。
体の健康のために、以下の4つの観点で自身を振り返ってみてください。

- 快眠
理想的な睡眠時間は「7時間」です。また、「昼寝ができるかどうか」も重要で、昼寝ができることは健康な証拠です。
- 快食
食事の基本は腹八分目まで食べることが大事で、食べ過ぎはよくありません。また、お酒との付き合い方も見直してみましょう。
- 快便
気持ちよく排泄ができているかどうか、週に何回排便しているかを意識し、すぐに流さず、形状も観察し確認しましょう。
- 適度な運動
毎日何歩くらい歩いているかを意識してみてください。スマートウォッチなどを活用して歩数をチェックするのもいいでしょう。理想は1日あたり「7000歩」と言われています。
心の健康のために大事なこと

人の体には、脳脊髄から末梢神経が広がり、その中に「自律神経系」があります。自律神経系は「交感神経系」と「副交感神経系」に分かれ、交感神経は活動時に働き、副交感神経はリラックス状態のときに働きます。
人はストレスに対して自律神経系が適切に働き、適応しています。しかし、ストレス状況が長く続くと交感神経が過剰に働き、「ストレス反応」を引き起こします。これにより体のストレス反応として表れるのが「心身症」です。心身症には、胃潰瘍(ピロリ菌も関係)、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチ、生活習慣病などが含まれます。また、心のストレス反応では、ひきこもりや、燃え尽き症候群といった「適応障害」や「うつ病」につながることがあります。
そこで、このようなストレス反応を抑えるため交感神経をなだめて、副交感神経を適切に働かせることが大切です。近年、提唱されている「ポリヴェーガル理論」では、副交感神経には以下の2つがあると言われています。
- 背側迷走神経系【不動化】
- 腹側迷走神経系【社会交流】
背側迷走神経系【不動化】を働かせるのが、「快眠」「快食」「快便」「適度な運動」です。
一方、腹側迷走神経系【社会交流】は、「おしゃべり・対話」などを司り、「呼吸」「咽喉」「表情」「しゃべる」ことなどによって働きます。例えば、相手の表情を見ながら笑顔で話すことが該当します。
「快眠」「快食」「快便」「適度な運動」は自分でできることですが、「おしゃべり・対話」は相手が必要です。つまり、人は自分1人だけで健康を維持することは難しく、人との交流が大切です。
日本人は、年齢を重ねるにつれて友人が減り、1人で過ごす時間が増える傾向があります。孤立していくことを防ぎ、おしゃべりする時間を持つことが大切です。
心によい変化をもたらす方法として、以下のことを意識しましょう。
- 呼吸をゆっくりする
- 声の出し方に注意を向ける
- 顔を上げ、表情を豊かにする
- 姿勢を正し、肩甲骨をほぐす
- 広い歩幅で、早めに歩く
仕事に集中しているときは、息を詰めがちです。例えばPCに向かっているときなど、息を止めずに、「呼吸」を意識しましょう。
肩甲骨のほぐし方は、YouTubeなどで配信されている「肩甲骨体操」などの動画を参考にすると良いでしょう。
良質な睡眠を得るために
副交感神経を高めるための「快眠」の方法をご紹介します。
睡眠時間があまりとれていない方でも、日中に眠くならなければ、良い睡眠がとれていると考えられ心配はいりません。また、昼寝ができるのも健康の証です。
よく眠れていないと感じる方は、以下のことを心がけてください。
- 睡眠環境を整える(部屋を暗くする、静かにする)
- 入浴は布団に入る2時間前に
- スマホ・ニコチン・カフェインを控える
- ラベンダーの香り、カモミール・ティー
- 運動と日光浴
電気やテレビをつけたまま寝ることは避け、暗く静かな環境で眠りましょう。夜過ごすときの照明は、白い光ではなく暖色系の光を使用するといいでしょう。
お風呂に入ってすぐに寝るのではなく、寝る2時間前には入浴を済ませましょう。お風呂で温まった体が冷えてくる2時間くらいで眠くなります。
カフェインの摂取は、午後2時以降は控え、カフェインレスの飲み物を選んでください。カモミールなどのハーブティもおすすめです。リラックス効果のあるラベンダーの香りも良いですが、自分が好きな香りを取り入れるといいでしょう。
脳に直接作用する「睡眠薬」は、最後の手段と考えてください。
適切な食事・飲酒
「快食」のため、適切な食事のとり方をご紹介します。
- 決まった時間、腹八分目が基本
- よく噛んでゆっくり食べる
- 改めて栄養バランスを見直す
- 食事による無理なダイエットはしない
- 歯の治療を!
- 一人よりも好きな人といっしょに食べる
自身がどんなふうに食べているかを思い返してみましょう。麺類やご飯をかきこむように食べている方も多いのではないでしょうか。よく噛むことを心がけてください。
栄養バランスを保つため、また、食事による無理なダイエットをしないためにも、炭水化物を抜くことはおすすめしません。
好きな人と一緒に美味しく、楽しく、食べましょう。
「飲酒」については、以下のことを意識してみてください。
- 「お酒とのつき合い方」を決めておく
- 改めて適量を知る
- 食べながら=薄めて飲む
- 同じ量の水を飲む
- 一人よりも好きな人といっしょに飲む

毎日お酒を飲む場合の1日の適量です。
無理をせず、楽しく付き合うことが大切です。
適度な運動
適度な運動の習慣をつけるためのコツは、以下のとおりです。
- 毎日散歩が基本(距離と時間を調べる)
- ウェア・シューズを買う
- 呼吸と腕ふりを意識しながら
- スマートウォッチで心拍数を見ながら
- 音楽・オーディブルを聴きながら
- ストレッチ、ヨガ、自重トレもOK
基本は「毎日の散歩」です。1日7000歩が理想とされていますが、運動習慣がなかった方が急に始めると、疲れてしまうことがあります。負荷をかけ過ぎない範囲から始めましょう。
歩くときは、肩甲骨、呼吸を意識して、腕を振ると良いでしょう
また、ウェアやシューズを買うとモチベーションが上がります。散歩用に着替えることで、続きやすくなります。音楽や、本を耳で聴く「オーディブル」などを利用すると、楽しく歩けて習慣化につながるかもしれません。
自身が運動を続けられる方法を考えてみてください。
健康に長生きするために

健康になるには、さまざまな概念があり、手立てがあります。「健康」の要素もさまざまです。「これさえやればOK」というものはありません。また、「誰にとっても良い」というものもありません。自分に合った取り入れやすい方法を選び、まずは始めてみることが大切です。
セルフマネジメントを意識することも重要ですが、「おしゃべりが大切」とお伝えしたように、「誰かとつながっていくこと」「誰かと一緒に健康になっていくこと」を理解することも大切だと思います。ぜひ心がけてみてください。
【質疑応答】
事前にいただいたご質問について、田中先生にご回答いただきました。
Q)睡眠の質が悪く、夜中に目が覚めることが多く、朝まで眠れません。起床したい1時間ぐらい前にようやく眠りますが中途半端な睡眠となってしまいます。原因はなんでしょうか?深い眠りにつき、朝まで目が覚めずに眠れる方法はありますか?
A)まずは生活習慣を見直してみましょう。タバコやカフェインなどの刺激物を摂取していないか、明るい環境で寝ていないかなどの睡眠環境について振り返ることをおすすめします。朝方まで寝付けないという人は、動画を観たり、音楽を聴いたりと他の作業をする場ではなく、あくまでも「ベッドは寝る場所」と認識し習慣を改めるようにしましょう。他に睡眠の質が低下する原因としては、運動不足や夜ごはんを抜くなど、様々なことが考えられるため、ひとつひとつ習慣を見直すことが大切です。
Q)日中眠くなりがちですが、眠くならない方法はありますか?また、眠くなった場合に目を覚ます 方法はありますか?
A)昼寝ができることは健康の証です。しかし、夜の睡眠が疎かになっている可能性もあります。眠くなるタイミングはいつか日々の習慣から振り返りましょう。日中の眠気対策としては午前中にカフェインを摂取することがおすすめです。昼食後や夕刻に眠くなるのは自然なことです。無理にカフェインを摂取するのではなく、会議の時間帯を変えるなど、仕事のやり方を工夫することが良いでしょう。
Q)寝ても寝ても眠く、疲れが取れないときはどうしたらいいでしょうか?考えられる原因と改善方法を教えてください。
A)何らかのストレスがあると考えられます。仕事や人間関係でどれくらいの負荷がかかっているのかを見直してみましょう。それらをすぐには改善できなくても、「布団までは持ち込まない」ことが大切です。寝るときは考えず、「今は自分の幸せな時間」と意識を切り換えましょう。
また、「食事」が関係することもあります。しっかり食べているか、逆に食べ過ぎていないかを振り返ってみてください。加えて「運動不足」の可能性もあります。
Q)眠りにつけないとき、睡眠をサポートするという市販のサプリを飲みますが、体には良くないでしょうか。ちなみに効果は不明です。
A)効果が不明な場合、体へのマイナス影響はそれほど心配ないと思われます。それを使用することで「よし、寝るぞ」という意識に持っていけるのであれば有効かと思います。ただし、それだけに頼るのではなく、快眠のコツも試してみてください。
Q)睡眠の質が悪いことが原因でおこる病気はありますか?ある場合、それはどのような病気ですか?
A)「睡眠の質が悪いこと」で、副交感神経の働きが悪くなり、深い眠りにつけません。その結果、ストレス反応が出やすく、心身症や高血圧を引き起こす原因になることがあります。
質問の視点とは異なりますが、「睡眠の質が悪くなる病気」としては高齢者や肥満状態の人が引き起こしやすい睡眠時無呼吸症候群があげられます。いびきがひどく自分のいびきで起きてしまう人は睡眠時無呼吸症候群を疑い、スリープクリニックにかかることをおすすめします。
Q)目覚めが悪く、朝すっきりと起きることができません。原因はありますか?日常生活で取り入れられる改善方法があれば教えてください。
A)子供の時から目覚めが悪い方は大人になっても治りにくい傾向があります。大人になってから目覚めが悪くなった場合は、睡眠の質の悪さなどが考えられるので、快眠のコツを試してみてください。また、起きたら音楽をかける、顔を洗う・朝食を摂る等のルーティンを作り体に染み込ませていき、生活にメリハリをつけ、習慣化させることをお勧めします。
Q)血圧と睡眠の関係性について。週末は安定していますが、平日は翌日の仕事の緊張などで睡眠不足も関係するのか、血圧が上がります。解決方法はありますか?
A)副交感神経が寝ている間にうまく働かず、リラックスできていない状態です。布団に入ったら「明日どうしよう」など色々と考えることはやめましょう。つい考えてしまうなら「草原を思い浮かべる」などよく眠れそうで、自分がリラックスできるイメージを持っておくといいでしょう。夜は仕事のことは考えず、スイッチの切り替えが重要です。
Q)快便のためにするべきことはよくメディアにも取り上げられていると思いますが、そもそもの便秘の原因は何でしょうか?
A)考えられる原因としては、「食事のバランスが悪い」「食べ過ぎ」「水分不足」「運動不足」「腹筋不足(きばれず、排便のタイミングを逃す)」などが挙げられます。自身の生活を振り返り、思い当たる点を改善しましょう。
外出中など、トイレに行くタイミングを逃してしまっていることもあるでしょう。落ち着いて用を足せるトイレがある場所や「いつ行くか」を意識しておくことも大切です。
Q)仕事でも、プライベートでも、人との関わりによって、良くも悪くも心身の健康に影響を与えると思いますが、悪い影響を与えたときに、ストレスを軽減するための効果的な方法や、自身でできる対処法(精神的に)ありますか?
A)人との関わりが心身に悪影響を与える場合、距離感をうまく調整することが大切です。苦手な人やトラウマを再燃させるような人と接する時間を意識的に調整し、リフレッシュできる時間を増やしましょう。人間関係を断捨離して孤立するのではなく、適度な距離を保つことが重要です。また、思い悩んでいる場合はカウンセリングを受けることもおすすめします。
Q)現代病として、うつ病や適応障害などの精神的な病気になりやすい体質の人は比較的どのような人ですか?職場環境や本人への声掛け等、日頃から気にかけてあげられることがあれば教えてください。
A)かつては真面目、頑張り屋さんといった、特に人間関係において人の役に立ちたいと頑張りすぎてしまう人がうつ状態になりやすいとされていましたが、今は一概にこういう人がなりやすいとは言い切れません。また、実際は、男性よりも女性の方がうつ病の方が多いという事実もあります。
うつ病になる手前で気づいてあげられると理想ですが、実際は難しいです。そういう人に対して、日頃から気にかけることとしては、思いつめていないか、抱え込みすぎていないかに気を配り、適度な距離感を保ちながらサポートすることが大切です。
気分転換にランチに連れて行ったり、日頃から対話を意識的に行うことも大切です。
Q)うつ病や適応障害などの精神的な病気は自分では気づけないと言いますが、自分で気づけるポイントはありますか?また、その場合は心療内科、精神科、どの科を受診すれば良いですか?
A)快眠、快食、快便、適度な運動を意識しているのに、下を向いて歩いていたり、うまく回っていないと感じることがあります。日頃から喋り方や顔色を意識し、鏡に向かって自分に「おはよう」と言ったり、家族に「おはよう」と言うことで、声の力のなさに自分で気づいたり、家族が気づくかもしれません。「好きな食べ物を美味しく感じない」ということもあります。
自身に異常を感じたときは、まず内科を受診してみましょう。うつ状態になっているのは、体の病気が原因であるかもしれません。健康診断を受けていても、半年くらいで発症・悪化する病気もありますので、採血やレントゲン撮影などで健康状態を確認してください。それで異常がなくても不調が続くなら、精神科の受診を検討しましょう。